1. 社会心理学とは何か
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1. 社会的動物としての人間
2. 社会心理学という学問
2-1. 社会心理学の定義
集団の心理学を扱う学問と誤解されがち
「社会」(多くの人間が集まった共同体)に引きづられて
ここでの「社会」は必ずしも集団との関係性を仮定したものではない
1対1 or 1対少数といった、マクロな対人関係を念頭に置いたものと考えたほうが本来の姿に近い
「社会」ということばが出てこない
たった一人の他者であったとしても、その存在が私達に何らかの影響を与えるのであれば、それは社会としての社会心理学が取り上げるべき事象
その他者が、現実に目の前に存在している必要はない
社会心理学では、"個人の"思考、感情、および行動への影響に関心を向ける
(少なくとも本書で扱う)社会心理学が着目するのは、基本的にはひとりひとりの人間が持つ心のしくみや働きであり、集団心理や集団行動といったものではない
厳密に言えば、社会心理学には2つの系統のものがある
本教材で扱う、心理学を背景として成立した社会心理学
社会学的色彩が濃い
個人よりも集団に重きを置き、社会構造や社会的変化などの把握・分析を研究目的とすることが多い(中村, 2006) ただし今日では、単に「社会心理学」といった場合、心理学的社会心理学を指すことが多い
関心の焦点は個人の心のしくみや働き
私達の心が、社会からどのような影響を受けるかということは、私達がその社会をどのように解釈・理解するかにも依存する
オルポートの定義を単純に読み解く場合、個人の心は社会(他者の存在)から一方的に影響を受けるもの
私達の行動が、社会環境だけでなく、その環境を人がいかに理解するかに依存するものであることを示す
「個人の行動は環境、特に社会環境に強く影響を受ける」 「個人は社会的状況を能動的に解釈する」
社会心理学は(社会→個人)と(個人→社会)という2つの過程を含む相互作用を研究対象とする学問
2-2. 社会心理学の特徴
私達が日常生活の中で遭遇しそうな様々な事象が例示され、それに対する社会心理学的な説明が、実際に行われた研究(多くは実験)の結果とともに紹介されている
社会心理学が取り組む研究設問(リサーチ・クエスチョン)の多くが、私達の日常生活と密接に関係したものであることを示している 一方で社会心理学では、私達が日常的に出会う問題だけでなく、世間の耳目を集めた事件や事象を発端として研究が行われる場合もある
多くの人は一人の「社会的動物」として、上記のような社会心理学的事象に疑問をもち、自分なりに検証をして答えを出そうとしている
"プロの"社会心理学者の出す知見は、"アマチュアの"社会心理学者にとって自明なもの、当たり前のもの、既知のもの見えることもしばしば
ある事象が起こり、その帰結を知ってしまうと、その帰結は事前に予測できたものだとして、自分の予測能力を課題に評価する認知の歪み 科学的検証が必要
真実だと信じられてきた事柄が、誤りだと明らかにされることもある
他者の行動について考える時、状況(環境)の影響を軽視しがち 現代の社会心理学で重視されるのは「実証性」
たとえ日常的な経験や現実の事件から着想を得たものであっても、客観的証拠によって、理論や仮説、命題を検証し、その真偽が追求されない限りは、社会心理学の知見にはなりえない
実験という手法を用いることで、先入観や常識にとらわれることなく、検証すべき事柄の真偽を確認することができる
プロとアマの違い
実験を行うことの利点として、焦点となる行動を調べるための社会環境を再構成できることが挙げられる
現実場面: 調べたい事象が起きるのをひたすら待って観察するよりほかに方法はない
実験では調べたい事象が起きるような社会環境を人工的に作り出して、そこで起きる行動を観察する
ただし、現実の社会環境を実験の場に忠実に再現することは大抵の場合不可能であるし、そもそもする必要もない
むしろ検証すべき事柄のみを抽出し、それとは無関係な環境要因を排除したり、コントロールしたりすることによって、社会的事象の本質を見極めることができると考えられる
2-3. 社会心理学の研究範囲
社会心理学は、慣例として社会を「個人内」「対人間」「集団」という3つの水準に区分する事が多い
「個人内」
私達が身の回りの環境をどのようにとらえているか、自分自身をどんな人間と思っているかといった問題をとりあげる
他者や他者を含む周辺環境を個人がどのように認識しているのか、また他者との関係において、その個人が自分自身をどんな人間と感じ、考えているかといった問題は、現代社会心理学の主要なテーマ
「対人間」
二者間のコミュニケーションや、他者に向けた行動、他者との相互作用などに焦点
「集団」
集団や組織の中での個人の行動や、集団成員間の関係性、集団間の関係性などに焦点
この3つの水準に、さらによりマクロな水準のテーマが付け加わることもある
3. 社会心理学がもたらすもの
心理学的な関心が先史の時代からあったこととは対照的に、それが1つの学問分野として確立しえたのはごく最近のこと(ヴントがライプツィッヒ大学に実験室を設けた1879年) 同じ事は社会心理学にも言える
社会心理学の萌芽は遥か昔から
アリストテレスはこのほかにも現代の社会心理学に通じる様々な言説を残している
学問としての独り立ちを始めたのは20世紀初頭辺りとするのが妥当
社会心理学者が扱う問題は私達の日常生活や現実に起こった事件などと密接に関係しており、そこで明らかとなったことは様々な現実場面に応用可能なはず
応用は危険をはらみ、もしものことがあれば社会心理学者は責任を問われる
それを嫌うがために、社会心理学者は、社会心理学を若い学問というのだと、アロンソンは言う
現実世界に還元するまでが社会心理学の仕事